日記 #2

今日(日付としては昨日)は4月29日。つまりにくの日らしい。閏年ではない二月を除いて、毎月必ず訪れるものだから特にありがたみもないのだが、親戚が肉の日として食事会を開催するとのことで美味い肉を喰らうべく参戦することにした。

 

普段は、高級な和牛どころかスーパーに売られている廉価な牛肉ですら手が届かない庶民の私であるが、本日頂いたお肉は100グラム3500円という目を疑う価格のついた牛肉であった。もはや現時点で言えば、私の価値さえも超えうるそのきらめく霜降りに、肉塊となってなお高級牛としての誇りを一切失わない気高さをひしと感じ合掌した。

料理の腕に多少の覚えがある私にとって、あの誇り高き牛肉たちが家庭用キッチンで粗々と焼かれていく様にいささかの悲しみは覚えたものの、お呼ばれした分際で私に焼かせて見せよなどとのたまう鉄面皮ではない。よしんば、私が調理に任命されたとしてわが双肩にのしかかる責任やら、期待やら、牛やらの重圧に耐えられるわけもないのでおとなしく猫のように座っておくことにした。

調理に一抹の不安は覚えたものの、高級肉の前に調理法など小事であると痛感せられた。味の表現などといった難解なことを私に期待するべきでないのは明白だが、まあ月並みに言って肉の脂の甘味、筋肉の繊維一つ一つが糸のように崩れていく様、そのバランスがまさに黄金比と言える代物であった。思わず米をかきこみたくなったが眼前に鎮座したのは赤ワインだったので例によって猫のようになりマリアージュとやらを楽しんだ。

ほかにも佐賀牛のフィレ肉や仙台牛などいった銘柄牛たちをひとしきり楽しんだのだが、すべてを綴ると長すぎるし読者諸賢もうんざりであろうから割愛する。

一日でも早く今日の牛たちに見合う人間になるべく邁進していく所存である。

それでは、また明日。